日本の鉄鋼業は、20世紀後半、粗鋼生産量の増加とともに目覚ましい発展を遂げ、それに付随して鉄鋼の生産プロセスや材料開発に関する研究が活発に行われてきました。しかし近年、地球温暖化の原因となるCO2を多量に排出してきた鉄鋼業界は、従来技術の根本的な見直しを社会から迫られており、カーボンニュートラルを目指すための全く異なる新しいプロセス開発や材料開発が喫緊の課題となっています。そのような時代の趨勢に対応するためには、深い知識と理解力を身につけ、新たな発想で鉄鋼の技術開発に取り組む若い人材の育成が不可欠であることは言うまでもありません。
九州大学鉄鋼リサーチセンターは、鉄鋼に関する先端研究を推進し、日本の鉄鋼技術を学術面からサポートすること、社会的課題の共有と解決の視点を備えた人材の育成を目的として平成17年に九州大学内に設置されました。それ以来、鉄鋼各社のご支援により、産学連携体制で研究教育活動を継続して参りました。お陰様で、令和7年には設置20周年を迎えることになります。これまでに300名以上の人材を鉄鋼に関連した企業や大学に輩出し、鉄鋼分野の発展に大きく貢献してきました。長年のセンター運営を通して、活動内容も充実・安定し、これを継続することで今後も同様の成果が見込めると自負しています。しかしながら、最初に申し上げましたような社会動向を鑑みると、センターの活動の重要性はむしろ従来以上に増しており、現状への対応や新しい変革も必要になってきたと言えます。そのためには、鉄鋼各社と現在実施している共同研究や大型研究連携、大学院生を対象とした産学連携講義をはじめとした研究教育活動を今後いっそう強化していかねばなりません。世界情勢を見極めつつ、各業界との連携や国際的な情報共有に取り組んでいく必要性もあるでしょう。一部の分野に特化せず、鉄鋼業界全体を見渡して総合的に取り組んでいくことも重要と考えます。その点において九州大学鉄鋼リサーチセンターは、鉄鋼、機械、化学における広範な学術領域をカバーする教員を揃えており、しかも鉄鋼製造の上工程から各種製品にいたる下工程まで、あらゆる研究教育分野にも対応できる組織を有しています。センターに関わる教員と鉄鋼技術者がさらに強く連携していくことで、直面している困難に立ち向かい、鉄鋼分野から未来のカーボンニュートラル社会の構築に向けて貢献していくことが可能であると確信しています。
最後になりますが、近年、国の戦略的な科学技術の基本計画において情報通信分野やエネルギー関連分野などへの重点化が進められる中、鉄鋼リサーチセンターが長期間にわたって鉄鋼材料に関する研究教育活動を継続できたのは、国内鉄鋼各社の九州大学へのご理解とサポートがあってこその結果でございます。今後の活動をますます発展させていくため、引き続きご支援の程、何卒よろしくお願いいたします。
九州大学 鉄鋼リサーチセンター
センター長 土山 聡宏